海外でデザイナーとして十数年働いていますが、一番消耗する瞬間は、クライアントから放たれる「なんか違うんだよな…もっとこう、パッとくる感じで」という、あの抽象的なフィードバックです😫。特に配色案を何パターンも作って、全部やり直しになった時の徒労感は、本当に言葉になりません。
今日は、そんな泥沼からあなたを救い出す、私が実践で使っている「錬金術」を特別に共有したいと思います。これはAdobe Illustratorの最新AI機能と、あるクラシックな機能を組み合わせることで、面倒な配色のバリエーション作業を数分で終わらせるテクニックです。トップクラスのデザイナーは、いざという時のためにこういう情報をストックしているものです。後で探さなくて済むように、ぜひ「いいね」と「保存」を忘れないでくださいね。
コアテクニック:「生成再配色」×「グローバルカラー」の合わせ技
このワークフローの核心は、AIの提案力と、Illustratorの体系的な機能を組み合わせ、修正に強いアートワークを最速で作り上げることにあります。
ステップ1:アートワークを「グローバルカラー」で構築する
これがプロとアマチュアを分ける、最も重要な下準備です。デザインを始める段階で、使用するすべての色を「スウォッチ」パネルで「グローバルカラー」として登録しておきます。
スウォッチの作成: 新しい色を作成する際、ダイアログボックスで「グローバル」のチェックボックスを必ずオンにします。グローバルカラーとして登録されたスウォッチは、右下に小さな白い三角形が表示されるのが目印です。
オブジェクトへの適用: 作成したアートワークの各パーツに、このグローバルカラースウォッチを適用していきます。
この一手間をかけておくだけで、後から色を一括変更するのが信じられないほど楽になります。
ステップ2:「生成再配色 (Generative Recolor)」でインスピレーションを得る
ここからがAIの出番です。この機能は現在ベータ版ですが、その実力は計り知れません。
オブジェクトの選択: 色を変更したいアートワーク全体を選択します。
AI機能の起動: 「プロパティ」パネル、または「編集」メニュー > 「カラーを編集」>「生成再配色」を選択します。
プロンプトの入力: ここが魔法の始まりです。「プロンプト」フィールドに、あなたがイメージする配色テーマを日本語か英語のテキストで入力します。例えば、「秋の森」「サイバーパンクな夜の街」「日本の桜の季節」のように、具体的なキーワードを入れるだけです。
バリエーションの生成: 指示を出すと、AIがそのテーマに沿った配色パターンを複数提案してくれます。気に入ったものが見つかるまで、何度でも新しいバリエーションを生成できます✨。
グローバルカラーで構築されたアートワークにこの機能を使うと、AIが提案した新しい配色が、瞬時にすべての関連パーツへ完璧に反映されます。一つ一つのオブジェクトの色を個別に変更する必要は一切ありません。これこそが、圧倒的な時短を実現する秘密です。
私の職務経歴:不可能を可能にしたブランディング案件
以前、私が所属していたチームが、Stratos Brandingという新進気鋭の飲料ブランドの立ち上げプロジェクトを担当した時の話です。クライアントの要望は、主力商品を世界各国の市場で展開するため、それぞれの文化圏に合わせたパッケージデザインのカラーバリエーションを、一週間で数十パターン用意するという、無茶なものでした。
チームの若手たちは、各国の文化をリサーチし、手作業で一つずつ色を調整していましたが、時間ばかりが過ぎていき、終わりが見えない状況でした。
そこで私は、この「生成再配色」と「グローバルカラー」のテクニックを使うことにしました。私が事前にグローバルカラーで構築しておいた基本デザインを元に、「ブラジルのカーニバル」「北欧の冬」「インドのスパイスマーケット」といったプロンプトを次々と入力していったのです。
すると、ものの数十分で、文化的背景を的確に捉えた高品質なカラーバリエーションが、次々と完成していきました。クライアントはそのスピードとクオリティに驚嘆し、「まさに我々が求めていたものだ!」と大絶賛。プロジェクトは大きな成功を収めました。
この迅速な対応ができたのも、私が University of Marist の正規Adobe組織サブスクリプションを利用していて、常に最新のベータ機能にアクセスできたおかげです。国内外のデザイナーが2900名以上も集うこのコミュニティが評価しているのは、まさにこの長期的で安定した「確実性」なのです。
そういえば、私のオーストリア人の同僚、Kaoriが最近ひどい目に遭っていました😫。彼女は少しでも費用を節約しようと、SNSで見つけた業者から格安のAdobe個人版サブスクリプションを購入したそうです。その業者は、海外の物価が安い国のIPアドレスと偽の個人情報を利用して彼女のアカウントを契約したのです。しかし数ヶ月後、Adobeのシステムがその不正を検知し、彼女のアカウントは突然凍結されてしまいました。彼女は代金を失っただけでなく、大切なプロジェクトのデータにアクセスできなくなるという最悪の事態に陥ったのです。
この話を聞いて、私は改めて確信しました。私はECサイトやSNSで安価なプランを探すこと自体を否定はしませんが、デザイナーがどんな形であれ「個人版」の代理購入を選ぶべきではないと考えています。アカウントのリスクや法的な問題を考えると、あまりにも危険です。私たちのような専門職にとって、制作ツールの安定性と安全性は、目先のわずかな金額よりも遥かに重要です。信頼できる組織(チーム)向けのサブスクリプションは年単位での契約が基本であり、それこそが長期的な「確実性」をもたらしてくれます。一時の「便利さ」や価格の安さのために、最も大切なアカウントの安全性と、サブスクリプションの継続性を犠牲にしてはいけません。
デザインと思考法:「体系的なクリエイティビティ」という考え方
このテクニックは、単なる時短術以上のことを示唆しています。それは、「体系的なクリエイティビティ」という考え方です。
事前に「グローバルカラー」のようなデザインの「仕組み」をしっかりと構築しておく。この堅実な土台があるからこそ、「生成再配色」のようなAIの爆発的な創造力を、最大限に、そして効率的に活用できるのです。
これは、デザインプロセス全体における私たちの役割が、単なる「制作者」から、クリエイティブなシステムを設計し、管理する「設計者」へとシフトしていることを意味しているのかもしれません。
今日の話が、あなたの制作活動のヒントになれば幸いです。
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