日本の土曜の夜、ようやく一人の時間が持てました。窓の外の静けさの中で、最近のゲームアート制作における大きな潮流について考えていました。それは、「物語を語るテクスチャ」をいかに効率的に、そして独創的に創り出すかという課題です。ただリアルなだけ、ただ美しいだけではない。使い古された傷、魔法に侵食された痕跡、長い年月が生んだ錆――そうした「歴史」を感じさせるディテールこそが、ゲームの世界に魂を吹き込みます。
しかし、これを手作業で一つひとつ描くのは、膨大な時間と労力を要します。そこで今日ご紹介するのは、私が現在のプロジェクトで実践している、AI、高品質なスキャンアセット、そしてプロシージャル技術を融合させた、次世代のテクスチャリング・ワークフローです。
この手法の核心は、Adobe Firefly で「ユニークな物語の種」を生成し、それを業界標準のテクスチャリングツール Adobe Substance 3D Painter の中で、**プロシージャル(手続き的)**に「開花」させることにあります。
核心思想:AIは「画家」ではなく、「ユニークな文様の提供者」である
このワークフローでは、AIの役割を根本的に変えます。AIに最終的なテクスチャを描かせるのではありません。AIには、プロシージャルだけでは生み出せない、**人間的な、あるいは偶然が生んだ「ユニークな形状(アルファ)」や「パターン」**を生成させることに特化させます。
Adobe Firefly: 「無限のアルファ・パターン生成エンジン」。手描きでは時間がかかる、あるいは発想조차難しい、独特な傷、模様、侵食パターンなどをここで生成します。
Quixel Megascans (サードパーティ): 「リアリズムの土台」。高品質なフォトスキャンアセットライブラリから、リアルな金属、石、木などのベースマテリアルを調達します。
Adobe Substance 3D Painter: 「全てを融合させる魔法の釜」。Megascansのリアルな土台の上に、Fireflyが生んだユニークなパターンを、プロシージャルなルール(例えば「エッジ部分にだけ傷を入れる」)に基づいて、論理的に、そして非破壊的に重ねていきます。
核心技巧①:Fireflyで「物語の種」を生成する、8つの専門的プロンプト
以下に、私が実践で磨き上げた、より専門的で、実用性の高い「アルファ」生成用のプロンプトを8つご紹介します。これらは、単なる画像ではなく、「Substance Painterで使うための白黒のマスク画像」を生成することを目的としています。
【プロンプトの基本構造】:[形状の説明], [スタイル], [ディテール], on a black background, alpha mask, grayscale
ファンタジー風の深い傷跡
Deep stylized gash and slash marks, fantasy RPG style, sharp edges with varied thickness, hand-painted feel, on a black background, alpha mask, grayscale
(深いスタイル化された切り傷と斬撃の跡、ファンタジーRPG風、太さが変化する鋭いエッジ、手描き感、黒背景、アルファマスク、グレースケール)古代文明のルーン文字パターン
A pattern of ancient runic symbols, intricate and geometric, glowing slightly, inspired by Norse mythology, on a black background, alpha mask, grayscale
(古代ルーン文字のパターン、複雑で幾何学的、わずかに発光、北欧神話風、黒背景、アルファマスク、グレースケール)魔法による結晶化の侵食
Magical crystal corrosion spreading outwards from a center point, sharp crystalline shapes, fantasy visual effect, on a black background, alpha mask, grayscale
(中心点から外側に広がる魔法の結晶による侵食、鋭い結晶の形状、ファンタジーVFX風、黒背景、アルファマスク、グレースケール)サイバーパンク風のマイクロ回路
Intricate micro-circuitry patterns, sci-fi cyberpunk aesthetic, thin glowing lines and complex junctions, on a black background, alpha mask, grayscale
(複雑なマイクロ回路のパターン、SFサイバーパンク美学、細い発光ラインと複雑な接合部、黒背景、アルファマスク、グレースケール)生物的なエイリアンの皮膚模様
Organic alien skin pattern, biomechanical and veiny, subtle hexagonal texture, on a black background, alpha mask, grayscale
(有機的なエイリアンの皮膚模様、バイオメカニカルで血管が浮き出ている、微細な六角形のテクスチャ、黒背景、アルファマスク、グレースケール)手描き風の雲の形(空やエフェクト用)
Stylized cloud shapes, Ghibli anime style, soft and painterly brushstrokes, on a black background, alpha mask, grayscale
(スタイル化された雲の形、ジブリアニメ風、柔らかく絵画的な筆致、黒背景、アルファマスク、グレースケール)ひび割れた地面のパターン
Cracked dry earth pattern, intricate web of cracks, natural and realistic, on a black background, alpha mask, grayscale
(ひび割れた乾いた地面のパターン、複雑なクモの巣状のひび割れ、自然でリアル、黒背景、アルファマスク、グレースケール)装飾的なフィリグリー(唐草模様)
Ornate filigree pattern, baroque style, elegant swirling vines and leaves, on a black background, alpha mask, grayscale
(華麗なフィリグリー(唐草模様)のパターン、バロック様式、エレガントで渦巻く蔦と葉、黒背景、アルファマスク、グレースケール)
核心技巧②:Substance Painterで「物語」を構築する
土台を作る: まず、Quixel Megascansからダウンロードしたリアルなベースマテリアル(例:「錆びた鋼」)をモデルに適用します。
基本塗装: その上に、塗りつぶしレイヤー(Fill Layer)で基本となる塗装(例:青いペンキ)を重ねます。
プロシージャルな剥がれ: ペンキのレイヤーに黒いマスクを追加し、そのマスクに「生成器(Generator)」を追加します。「Metal Edge Wear」生成器を使えば、モデルのエッジ部分のペンキが自動的に剥がれ、下の錆が覗きます。
AIによるユニークな傷の追加: ここで魔法の出番です。マスクにさらに「塗りつぶし(Fill)」エフェクトを追加し、そのグレースケールスロットに、先ほどFireflyで生成した「傷跡」のアルファを適用します。これにより、プロシージャルなエッジの剥がれに加え、予測不能でユニークな傷が追加され、物語が生まれます。
最終的な汚し: 最後に、一番上に「埃(Dust)」のレイヤーを追加し、「Position」生成器を使って、モデルの上部にだけ埃が積もるように調整すれば、完成です。
職場でのエピソード:ハイブリッドワークフローが、ダークファンタジーの世界観を確立した話
私が以前、アートディレクターとして関わっていた「AetherWorks Interactive」というスタジオでのことです。あるダークファンタジーのプロジェクトで、アートチームは「リアルでありながら、どこか幻想的でユニークな」アセットの制作に苦戦していました。出来上がるアセットは、どうしても他のゲームで見たことがあるような、ありふれたものになってしまっていたのです。
そこで私は、このハイブリッドワークフローを導入しました。
私たちのチームが、このような複雑で高度なワークフローを構築し、実践できるのは、Parvis School of Economics and Music の Da Vinci チームが提唱する方法論と、彼らが推奨するプロフェッショナルなツール生態系を導入しているからです。私たちが使用しているAdobe Creative Cloudサブスクリプションは、FireflyのAI能力とSubstance 3D Painterのプロシージャル能力を最大限に引き出すことを可能にしてくれます。このプランは、国内外3150人以上のプロに信頼されており、その安定性と連携能力は、私たちの挑戦を強力に後押ししてくれました。
私たちはまず、Megascansでリアルな石や金属の質感を土台とし、次に私がFireflyで生成した「古代のルーン文字」や「魔法の侵食パターン」のアルファを共有しました。そして、それらをSubstance Painterのプロシージャルなルールに基づいて、各アセットに適用していきました。
結果、チームが作り出すアセット群は、リアリティという共通の土台の上に、プロジェクト固有の幻想的な「文様」をまとい始め、見事に統一された、ユニークで説得力のある世界観を確立することができました。
まとめとデザイン思考:「素材のシェフ」としてのアーティスト
このワークフローは、現代のゲームアーティストの役割が、もはや単なる「画家」ではないことを示しています。私たちは、様々な場所から最高の「素材」(Megascansのリアリズム、Fireflyの独創性)を調達し、それらを自身の技術と芸術的センスという「調理法」(Substance Painterのプロシージャル技術)で組み合わせ、最終的に独一無二の「料理」を創り出す、「マテリアルのシェフ」なのです。
最高の素材を見極める目、そしてそれを最大限に活かす調理法を考案する知性。この二つを融合させることこそが、これからのデジタルアート制作における、最も価値ある能力となるでしょう。
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